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「わかんないって……もしかして、電車に乗ってきたのかな? ほら、そこに駅があったでしょ?」
「わかんない。本当だよ。ぼく、ウソついてないよ」
涙をぽろぽろこぼしている男の子がかわいそうになって、頭を撫でてあげようとあさひはそっと手を伸ばした。
すると、怯えたような顔で男の子は自分の頭をかばう。
「たたかないで。ぼく、ウソつきじゃないよ」
「たたかないよ。大丈夫」
「ほんと?」
「ほんとだよ。ほらね」
あさひがやさしく頭を撫でると、男の子はやっと安心したように表情をゆるめた。
「ぼくね、パパとママとまあくんといっしょに、キャンプに来たの」
「まあくん?」
「ぼくの弟だよ。まさとっていうんだ。きょねん生まれたばかりなんだよ。すごくかわいいんだ」
「そっか」
「でもね、車の中でね、まあくんがおもちゃでぼくのことをたたいてきたの。すごく痛かったから、ぼくがしかえししたら、ママにおこられんだ。ママは『けいくんみたいなわるい子には、おしおきね』っていって、ぼくを車からおろしたの」
男の子が身につけていたのは、コットン地の薄手の長袖Tシャツに膝丈のズボンだけだった。
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