528人が本棚に入れています
本棚に追加
自分自身の罵倒に耐えていたあさひに、オババは「あんたの持ってるものと交換でいいよ。ひひひ」と笑いかける。
「交換?」
「そうともさ。ここの売店では、銭はいらないよ。ほしいものがあれば、代わりに何かを置いていくんだ。それがここでのならわしさ」
わけがわからないことばかりだ。
だけど言い出してしまった手前、この奇妙な取引を終わらせるには、オコゼのお代になりそうなものを渡すしかない。
困ったあさひはバッグの中に手を突っこんだ。その指先に、ひんやりとした小さなものが触れる。取り出してみると、キラキラしたボタンだった。
それを見て思い出した。
カーディガンのボタンが腕時計のベルトに引っかかって取れたのを、後で直そうと思ってバッグに入れてそのままだったのだ。
「ああいいね、それでいいよ」
「えっ、これですか?」
「さっきからそう言ってるだろ。ほれ。さっさとお寄越し」
オババに急かされて、あさひはボタンを渡す。
引き換えに、オババはオコゼを小さな巾着袋に入れて渡してくれた。輪になった長い紐がついている。
「そいつを首からかけときな。お守りだからね」
「は、はあ……ありがとうございます」
こわばった声で礼を言い、あさひはぎこちなく紐を頭から通した。
最初のコメントを投稿しよう!