第一話 まほろばの温泉郷

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 袋の中でカサリと乾いた音が鳴ってぞわりと肌が粟立ったが、お年寄りの言うことには無条件に従ってしまうのは、もうあさひの性分のようなものだった。    そこに、かすかにプアーンと警笛のような音が聞こえた。  つられて改札口の方をふりむく。  音はもう一度、聞こえた。さきほどよりもはっきりと。  間違いない。列車が来たのだ。  あさひは改札口から飛び出す。  オババは止めなかった。    霧の中に、ぼんやりと一対のヘッドランプが浮かび上がる。  あさひが乗ってきたのとは逆の方向から、二両編成の列車がホームへと滑りこんできた。 線路は一本しかなく、おまけにここは終点だ。  うまくあれに乗れれば、戻れるかも。  期待をこめて見つめるあさひの目の前で、プシューと音を立ててドアが開く。  だが、開いたドアから一斉に降りてきたのは――まるでヒトダマのような、青白い炎の一団だった。    ぞろぞろと列をなして、青い炎の群れは改札を抜けてゆく。みな、律儀にあの木箱へ切符を入れて。    ――なっ、ななな、なに、これ!?  今度こそあさひは凍りついたように動けなくなった。  売店の奥で、「ひひひっ」とオババは笑っている。 「そいつはただの狐火さ。ここじゃあ悪さしないから、怖がりなさんな」 「えっ、き、きつね?」  そんなあさひに向かって、青白い炎のひとつがふわりと近づいてきた。
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