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袋の中でカサリと乾いた音が鳴ってぞわりと肌が粟立ったが、お年寄りの言うことには無条件に従ってしまうのは、もうあさひの性分のようなものだった。
そこに、かすかにプアーンと警笛のような音が聞こえた。
つられて改札口の方をふりむく。
音はもう一度、聞こえた。さきほどよりもはっきりと。
間違いない。列車が来たのだ。
あさひは改札口から飛び出す。
オババは止めなかった。
霧の中に、ぼんやりと一対のヘッドランプが浮かび上がる。
あさひが乗ってきたのとは逆の方向から、二両編成の列車がホームへと滑りこんできた。
線路は一本しかなく、おまけにここは終点だ。
うまくあれに乗れれば、戻れるかも。
期待をこめて見つめるあさひの目の前で、プシューと音を立ててドアが開く。
だが、開いたドアから一斉に降りてきたのは――まるでヒトダマのような、青白い炎の一団だった。
ぞろぞろと列をなして、青い炎の群れは改札を抜けてゆく。みな、律儀にあの木箱へ切符を入れて。
――なっ、ななな、なに、これ!?
今度こそあさひは凍りついたように動けなくなった。
売店の奥で、「ひひひっ」とオババは笑っている。
「そいつはただの狐火さ。ここじゃあ悪さしないから、怖がりなさんな」
「えっ、き、きつね?」
そんなあさひに向かって、青白い炎のひとつがふわりと近づいてきた。
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