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七夕と言うことで笹を飾ったら、いつの間にかそこに中華風の装束を纏った青年が立っていた。
どうしてこんなところにいるんだって言うような不思議そうな顔で私を見つめてくる。私はよく分からないけれど、それが単なるコスプレとかでなく、彦星だと直感した。
その彦星らしい男性は辺りをきょろきょろ見回してから、
――ここはどこですか。
そう私に聞いてきた。
ここは**と言う場所です、と応じると、彦星は困り果てた表情で、こちらを見つめてくる。
――織姫を知りませんか。
と言っても私も知るわけがないので、首を小さく横に振る。
すると青年ははっと空を見上げて、大きく手を振って見せた。
――あちらから織姫の声がするのです。
そう言うと、目の前に美しい銀色の糸がするすると降りてきた。
まるで蜘蛛の糸の童話のように。
青年はそれを見て嬉しそうに目を細め、その糸をしっかと握る。
そして、するすると、まるでそれが当然と言うかのように上って言ってしまった。
ほんとうになんておとぎ話めいたことだろう。
ただ、その糸の切れ端は、今も私の手に残っている。
何となくおまもりにして、そっとしまっている。
きっといいことがあると信じて。
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