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今世紀1、素っ頓狂な声をあげた自信がある。
今自分の顔を見たら間違いなく吹き出すレベルで間抜けな顔をしていることだろう。
それほどまでに目の前の少女の発言は唐突かつ信じられない話だった。
「東京がなんだって?200年前に滅んだ旧日本?なんだそれファンタジー小説の話?」
アイリスは黙って僕を見つめる。
そこには先程までの敵意ではなく、どこか寂しげなものを感じる。
まてよ…。
僕にはアイリスが嘘をついているように思えなかった。
自宅の風呂に入っていたはずの自分がなぜかここにいること。
アイリスが腕につけているものや、お母さんロボ、そしてこの家のテクノロジーの高さ。
そしてアイリスの発言。
全てを考慮した結果、僕は一つの疑問を目の前の少女にぶつけた。
「一つ聞かせてくれ。今って西暦何年??」
「西暦?あぁ昔の暦の数え方ね。今は新暦200年。西暦で言えば2200年よ」
僕の馬鹿げた仮説が定説になった瞬間だった。
なぜなのかはわからないが、僕は200年後の世界にタイムスリップしてしまったらしい。
心臓の鼓動が早まる。僕は右手で思い切り頬を抓った。
抓った箇所はジンジンと熱を帯びている。
痛い。
あまりにも荒唐無稽な話だが、これは夢ではなく事実らしい。
僕の様子を察してか、アイリスが話しかけてきた。
「あなたまさかタイムトラベラーなの?」
その問いかけが的外れなのかどうかわからなかったが、僕の中では的を得ていなかったので若干の笑みがこぼれる。
「いや、僕が生きていた時代にはそんな技術はなかった。ただ僕がタイムスリップしてしまったというのは本当らしいね」
もし僕に家族がいて、もし僕に残りの時間がたっぷりとあったならば、この状況に発狂していたかもしれない。
しかし僕には何もない。あと半年後には死ぬという信じ難い現実を突きつけられた経験が今役に立っている。
深く深呼吸をして心臓の鼓動の戻りを待ってから、僕は椅子に深く腰掛け直した。
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