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つい先程余命宣告をされて、未来はないものだと思っていた僕が、200年も先の未来に生きている。
神様がいるのなら文句を言いたくなる。
理不尽に家族を奪われ、剰え、自分の命さえ無慈悲に奪われる未来が確定した僕に、この世界で何をさせようというのだ。
「僕の人生を弄ぶにもほどがあるだろ」
握った拳がわずかに震える。
口に出すつもりはなかったのだが、心の声が表に出てしまった。
ぶつけようのないこの怒りに似た感情を押し殺せるほど僕は大人じゃない。
俯いていた僕の肩に、ポンと手を置いたのはアイリスだった。
彼女の表情に憤りは感じられない。拳銃は腰のホルスターにしっかりと収められている。
「あんたが、一幸が過去の世界からきた人間だっていうことは信じてあげる。そしてその原因が解らないってことも解ったわ」
肩に置かれた手から敵意のようなものは感じなかった。
僕はこの紫色の髪の少女に、おそらく同い年ぐらいであろう少女に、心の中を見透かされたような気がして少し照れくさかった。
僕の肩に置いた手を離すと、アイリスは「付いて来て」と言い、僕に背を向けた。
僕は立ち上がり、アイリスと三歩ほど距離を開けて付いていった。
壁の前でアイリスが腕につけたものを弄り始める。
すると、今度は観音開きの要領で壁が音も立てず動いた。
壁の向こうは暗闇だったが、完全に開くと、明かりが灯った。
先は長い廊下のようだ。ただゴールは見えない。
この先に何があるのか、どこに向かうのかを検討することは到底不可能だろう。
「とにかく今の世界のことを教えてあげる。この、滅びゆく世界のことをね」
振り向きながらそう言ったアイリスの瞳はどこか悲しげで、僕を見ていると言うよりも、もっと遠くの何かに語りかけているようだった。
滅びゆく世界とは。疑問は尽きない。
アイリスが廊下へと歩みを進める。
僕はおずおずと彼女に付いて行った。
僕が入って数秒後に、壁が静かに閉じてゆく。
ちらりと振り返ると、閉じる間際にお母さんロボがこちらに向かって手を振っているのが見えた。
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