第1章  第2節 『未来世界』

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+++ 目的地は案外近くにあった。 歩数で言うと五歩。時間で言うと五秒。 拍子抜けするほど早くアイリスは立ち止まり、右手側の壁に向かっている。 僕は彼女の後ろ姿を見ながら、じっと待っていた。 例のごとくアイリスが腕につけているものを触ると、壁に亀裂が入った。 もう何度目かわからにその光景に、僕は慣れ始めていた。 部屋の奥から青白い光が漏れ出ている。 壁は動き始めてから二秒ほどで完全に開いた。 人ひとりが余裕を持って通れる大きさだ。 アイリスに続き、僕も部屋の中に入る。 部屋の中を見回して、まず気になったのは左に見えたテーブルの上だった。 そこには大小様々なモニターが合計6つ。モニターといっても僕が知っているようなものではない。光の板と表現するのが適切であろうそれらに実体はなく、何もない空間に投影されているようだ。 それらは青白く発光しており、先ほど漏れ出ていた光源はこれだろう。 そして次に目に留まったのは、ハンモックみたいなものだ。 もちろんこれも僕が知っているものではない。みたいなものと表現したように、姿形は似ていても、どこか違う部分があったからだ。 それは寝転ぶ部分だけ浮いていた。どこにも支えのようなものは見当たらない。 あんな非現実的な物の数々も、200年後の未来では一般的なんだろうな…。 なんて自分が未来に来てしまったことにセンチメンタルな感情を抱きかけたが、それは至極当然のことだ。 例えば僕が生きていた時代に1800年頃の人たちがタイムスリップしたとしたら、目に見えるもの全てがありえなかったことだろう。 ありえないどころか発狂死するかもしれない。 僕は漫画やアニメが普及した時代に生まれていてよかったものだ。 「あんたには全部信じられないでしょうね」 僕の心を読んだかのようにアイリスが話しかけてきた。 「いや、うん。どれもこれも信じられないね。特に君が腕につけてるそれ…」 僕は先ほどから何度も活躍している腕時計型のあれを指差した。 アイリスは自分の腕を顔のあたりまで上げ、腕の物を僕の方に向けながら「あぁこれ?」と面倒臭そうに答える。 「これはリモートオールコントローラー、リモルコンよ。この家の中にある物を動かしたり、さっきみたいに出入りの時に使ったり、まぁいろんなことができるわけ」 リモルコン…。 なるほどリモコンも200年の時の経過で進化したんだな。
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