第1章  第2節 『未来世界』

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僕が200年後の人間たちのネーミングセンスに、200年前と同じ親近感を覚えていると、アイリスがモニターを指で操作していた。 右に左に動く彼女の指に戸惑いはない。 「何をしているんだ?」 素直な疑問をぶつける。 「これを見たら驚くわよ」 アイリスが操作を終え僕の方を振り向くと、部屋の中央に日本地図が浮かび上がった。 しかしその日本地図も僕の知っているものと少し違う。 「この日本地図、関東地方が無い、というか削り取られているようだけど…」 地図には茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川の1都6県が描かれていない。 県境が綺麗に切り取られていると言うよりは、人為的に削り取られているといった方がしっくりくる。 「これが今の新日本の地図」 「新日本?」 「そう、あなたが住んでいた時代を旧日本。そしてこの地図の通り関東地方を消した時から、新日本となったのよ」 「関東地方を消しただって?どう言うことだ」 あまりの意味のわからなさに思わず声に力が入る。 そんな僕に対して何も変わらない様子で「落ち着きなさいよ」とアイリスが言った。 「今から150年前くらいの話よ。日本で突然T-4って言う病気が流行したの。T-4は脳に謎のウィルスが侵入して徐々に脳を溶かしていく病気だったらしいわ。何よりも恐ろしかったのは、感染スピードと進行の早さ。感染した人は1ヶ月以内に命を落としてしまったのよ。世界中の医療機関が治療のための研究をしたのにも関わらず、T-4ウィルスの治療法は見つからなかったわ。感染源も不明。このままだと感染が世界中に広まってしまう。そんな状況を深刻に受け止めた日本政府はある行動に出たの」 そこまで話してアイリスの口が止まる。 時間にして十秒ほど。 日本地図の消えた関東地方の部分をじっと見つめる彼女に「どうしたんだ?」と尋ねると、僕に目をやることもなく「なんでも無いわ」とだけ答えた。 本当になんでも無いのかどうか定かでは無いが、僕はアイリスが話し始めるのを待った。
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