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どうにかして二葉を車の外に連れ出そうとしたのだが、二葉の足が運転席の間に挟まっていて抜けない。
視界が霞む。腕に力も入らない。
「誰か…誰か助けてください!!!」
僕はいつの間にか集まっていた野次馬に助けを求めた。
その中から何人かの男が駆けつけ、二葉の救出を始めた。
「君、危ないから下がってなさい」
僕は一人の男に抱えられ、安全な場所まで運ばれた。
その時だった。
「爆発するぞぉぉ!!」
野次馬の誰かがそう叫んだ瞬間、轟音とともに目の前は火の海と化した。
僕は、ただその光景を呆然と眺め、思い出したかのような激痛が身体中をかけめぐったかと思うと、意識を失ってしまった。
眼が覚めると、僕は小綺麗なベッドの上だった。
六人の相部屋らしいのだが、僕以外にその病室には誰もいない。
主人のいないベッドが、今か今かと活躍の時を待っているようだ。
【死者4名。重傷者6名。白昼の家族を襲った居眠り運転】
翌日の新聞に取り上げられた事故の見出し。
事故の惨状を空撮した写真が使われていた。
慣れ親しんだ自家用車は炎に包まれ、前方部分が大破したトラックが事故の凄惨さを物語っている。
記事によると、家族の他に二葉を助けに入った男性の一人が爆発に巻き込まれて亡くなったらしい。
その男性の勇敢さやその家族についても取り上げていた。
涙が頬を伝う。
なぜ僕は生きているんだ。
この男性ではなく、僕が死ねばよかったのに。
なぜ僕は一人だけ生き残ってしまったんだ。
込み上げてくる怒りと悲しみ。
しかしこの怒りをぶつけたところで、この悲しみが癒されるわけではない。
どうしたって家族はもう取り戻せないのだから。
どうしたってこの現実は変わらないのだから。
それから1ヶ月後、僕は出迎えてくれる人もいないまま退院の日を迎えた。
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