第1章  第2節 『未来世界』

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「ってて…」 どれくらい時間が経ったのだろうか。 僕はとりあえず自分の頭がかち割れていないかを確認した。 頭に手を当てると見事なたんこぶができていたものの、出血はしていないようだ。 「自分で寿命を縮めるようなことしてどうする…」 皮肉なことを言った自覚はある。 湯船に入ろうとした時、ふと二葉に怒られていたことを思い出す。 《ちょっとお兄ちゃん!湯船に入る前はシャワーぐらい浴びてよね!》 僕の悪い癖だ。温泉はともかく、家の風呂にはそのまま入ってしまう。 風呂に入る前はよく二葉に怒られたっけ。 そんな日常を思い出しながら僕はシャワーから水を出した。 「うわっ!冷た!!」 容赦無く浴びせられた冷水に戸惑いを隠せなかった。 おかしい。確かにお湯が出る方のバルブを回したはずだが。 顔にかかった水滴を拭いながら、もう一度確認する。 やはり赤い色のついたバルブが回っていた。 「おいおい故障か??」 逆に青い方のバルブを回してみたり色々いじってみたが、やはりお湯が出ない。 僕が冷水と格闘していると、妙に外が騒がしいような気がした。 一旦シャワーを止め、耳をすませる。 「…さーん!」 やはり外で誰かが話しているようだ。それも中々の大声で。 その音はだんだんと大きくなる。 「お母さんもうお風呂できてる?」 若い女の子の声がした。 さらにわかったことといえば、これは家の外ではない。家の中だ。 そして誰のものか分からぬ足音がだんだんと大きくなる。 なぜだ。 この家には僕しかいないはず。 一瞬、泥棒かとも思ったがそんなわけがない。 泥棒が他人の家でお母さんにお風呂が沸いた確認なんてするわけがないからだ。 確実に近づいてくる足音。 それに呼応するように僕の心臓は鼓動を早めた。 そうだ!隠れる場所は!? 浴槽!浴槽に隠れるんだ! 僕が浴槽に足をつけた時だった。 ガチャ。 その無慈悲かつ無機質な音が浴室に響く。
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