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小さな病が全身に転移して、気付いた時には手遅れとなる。
そうした意味で鉄筋コンクリートのビルは人間の身体によく似た構造ともいえる。
違っているのは生物でないが故に自己修復の能力を持たないことだろう。
老朽化したビルを常に養生し修理管理する人間と、その費用の捻出ができていれば百年やそこらではビクともしない。
屋内に人間を住まわせてこそ、ビルは不死身の寿命を得るのである。
この話に出てくる古いビルは、俗に『戦前』と呼ばれる西暦1930年代に竣工した建物であり、大正末期に起きた関東大震災の後、復興事業の宣伝も兼ね、防火耐震性を考慮して建てられた、かなり頑丈な鉄筋コンクリートの建物だった。
そんなビルであったから、戦後昭和の高度成長期時代生まれの秀人には、そこがまるで白黒の怪獣映画の背景に写っている『昔の東京』がタイムスリップして現代に現れた建物のように見えたのも仕方がないことだった。
「これは、凄ぇ古いビルだな。大丈夫か? こんなんで」
八階建てのビルを正面に見上げながら、秀人はため息をついた。
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