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『花折々』 : 或る、神社横の階段。正午過ぎ
日照りの、それはそれは暑い日。
神社の外の石でできた階段はゆったりとした熱さを抱いていた。
あなたは私の隣に腰掛けて、
今日はとびきり暑いね、と呟くとリュックの中をまさぐって、飲みかけのペットボトルを差し出した。
こんなに暑いんじゃ、せっかく綺麗に咲いたのに、すぐに萎れちゃうよね。
どうやらミネラルウォーターらしいそれを、土に丁寧にかけると、困ったように微笑んだ。
セーラー服の裾が重たそうに風に揺れていた。
まだ、夏物に衣替えをしていないのだろう。
優しい子だ、なんて私は思ったのだ。
晴れた日に、紫陽花に目をくれる人なんて、珍しかったから。
その日の宵は月がひどく綺麗だった。
少し湿度を含んだ、夏の優しい、
やわらかい月の白い光を
私はいっぱいに吸い込んだ。
太陽の下でも見劣りしないような笑顔で、
今度あなたに、ありがとうと微笑むことができるように。
梅雨の日照りはとても貴重で、
いつ訪れるかもわからないから。
あなたがいつ、また私の横に座ってくれるか、
わからないから。
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