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選択肢がなかった、会長様は一体何を言い出そうとしているのか、やっぱり俺にはさっぱりだ。織田信長はきっと、想像上の話だけれど潔い人ではなかったのだろうか。ホトトギスのあれにもあるように。
「中野正剛さんって知っている?」
「それも、昔の人ですか」
いきなり新しい人物が出てくる。
「そう。江戸時代よりもっとあとだけど、ジャーナリストの人ね。その人はね」
なんだか一瞬、雑音が聞こえた気がした。彼女の声が遮られる。耳鳴りに似た音だった。
「なんていいました?」
「あぁ、聞こえにくかった?ごめんなさいね。中野さんはね、自分の意思を表すために自害したという説と、徴兵された息子の安全と引き換えに自害した、という説があるの」
「背景がわからないです、無知で申し訳ないです。大体は想像つきますけど」
「それでいいわ」
「はぁ」
いいのか、本当に。
「その人も、結局は殺されたようなものよね」
彼女は殺されたようなものだ、と言うけれど何か他のことが言いたいのではないだろうか。そもそもこの話は、どういう意図でされているのだろう。
「……息子の安全と引き換えにという説にのっとって、かつ会長様の考え方でいくとそうだと思いますが」
「自分の意思を表すために死ぬのは」
「自害じゃないですよ」
今度は俺の声が彼女の言葉を遮った。
「いいえ」
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