6人が本棚に入れています
本棚に追加
はっきりとした否定ではなく、おずおずとした、何というかはっきりしない否定だった。ただ、その瞬間さっきの耳鳴りがする。彼女の声が、遮られた。また、彼女の声が聞こえない。
「今なんていいました?」
「え、聞こえなかった?樟山くん耳、ちょっと悪いの?」
そんなことはない。入学時の検査にも引っかからなかった。
「いや……」
彼女は、あの否定のあと何を言ったのだろう。
「まぁいいの。なんでもない、ちょっと、ちょっとね」
気になって仕方がない。彼女のため息が耳に障った。
「何でも知っているのよって、自慢をしたかっただけ」
彼女は“私は、ボランティア作業も終ったしそろそろ帰るわ”と、そう言って教室に僕を一人残して去っていった。補習が終る17時半まで、課題を解きながら彼女のことを考えていた。
最初のコメントを投稿しよう!