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それから、他愛無い話をしながら行く宛てもなく歩いた。彼女を家に帰したほうがいいとか、そういう類のことを考えたりもしたけれどきっと、今は言い出さないほうがいいのだろうなと思った。それに、俺もまだ家に帰りたくはなかった。
「寒いね、ほんと。冷凍庫の」
「中ですか」
「そうね、冷凍庫の中みたい。あーあ、こんなに寒いなら雪くらい降ればね、幻想的で素敵なのに」
「帰れなくなりますよ」
「……帰れないほうがいいわ」
30分ほどすると、俺たちは何もしゃべらなくなった。寒い、から始まる他愛無い話は底を尽きたのだ。足元が寒い。耳も寒い、もう感覚がなくなってきていた。なのに、家とは反対方向へと足を進める。きっと、彼女の家からも遠くなっていっている。
「肉まん、食べたくならない?」
「肉まんですか」
「ラーメンでもいいわ」
「なんか」
「な
「女ってより男っすね」
「によ」
何が言いたいの、何を食べたって自由でしょ」
結局、俺は生徒会長様に肉まんを奢った。冗談半分だったのか、彼女は財布を持っていなかった。後で返すという彼女に俺は、タバコ内緒にしてくださいといって、タバコに火をつけた。そのまま、無理やり彼女の口にねじ込んでやると、彼女は噎せ返った。怒って、でも楽しそうに笑いながら彼女は帰っていった。
何だか彼女の本質を見た気になって、珍しく鼻歌を歌った。
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