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そんな事をせずとも、シェキーナはその事を理解していた筈だった。
しかしそんな理性とは別の処で、感情がエルスと共に逝けなかった事を認めたくは無かったのだ。
それでも、エルスの姿を何処にも見つけられない事実を実感してしまえば……認めざるを得ない。
シェキーナの叫びは何処にも……誰にも反響する事無く大空に吸い込まれ、吹きすさぶ風に掻き消され霧散して消え去っていったのだった。
そしてシェキーナは、ゆっくりと歩き出した。
本当ならば彼女は、今にも気を失ってしまいそうな程に消耗していた。
先程まで戦っていたのは、自分達と拮抗した力を持つアルナ達だったのだ。
本当に死力を尽くして戦った後ではその消耗も想像を絶し、今は気力で意識を保っているに他ならない。
それでもシェキーナには、その場で倒れる事も気を失う事さえ許されなかった。
誰が許すのでもない……自分自身が、そのまま意識を微睡に委ねる事を拒んでいたのだった。
シェキーナが足を向けた方向それは……魔王城の有る方角である。
今の彼女にはそこしか帰る場所は無いし、何よりもメルルに告げられた約定がある。
『……エルナの面倒を見て貰わなあかんのや……』
これを達成する為には、何としても……そして一刻も早く魔王城へと戻らなければならない。
勿論これは、メルルだけの望みでは無く。
エルスも、そしてカナンでさえそう望んでいるに違いないのだ。
そしてその事を、シェキーナ自身も拒むつもりは無かった。
真似事とは言え、シェキーナもエルナーシャから「母様」と呼ばれているのだ。
自身を母と呼び慕う娘を、シェキーナも放っておく事など出来なかった。
正しく足を引きずるように、シェキーナはその重い足取りを止める事無く歩き続けたのだった。
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