合流す

2/6
前へ
/349ページ
次へ
 そんな事をせずとも、シェキーナはその事を理解していた筈だった。  しかしそんな理性とは別の処で、感情がエルスと共に逝けなかった事を認めたくは無かったのだ。  それでも、エルスの姿を何処にも見つけられない事実を実感してしまえば……認めざるを得ない。  シェキーナの叫びは何処にも……誰にも反響する事無く大空に吸い込まれ、吹きすさぶ風に掻き消され霧散して消え去っていったのだった。  そしてシェキーナは、ゆっくりと歩き出した。  本当ならば彼女は、今にも気を失ってしまいそうな程に消耗していた。  先程まで戦っていたのは、自分達と拮抗した力を持つアルナ達だったのだ。  本当に死力を尽くして戦った後ではその消耗も想像を絶し、今は気力で意識を保っているに他ならない。    それでもシェキーナには、その場で倒れる事も気を失う事さえ許されなかった。  誰が許すのでもない……自分自身が、そのまま意識を微睡に委ねる事を拒んでいたのだった。    シェキーナが足を向けた方向それは……魔王城の有る方角である。    今の彼女にはそこしか帰る場所は無いし、何よりもメルルに告げられた約定がある。 『……エルナの面倒を見て貰わなあかんのや……』  これを達成する為には、何としても……そして一刻も早く魔王城へと戻らなければならない。  勿論これは、メルルだけの望みでは無く。  エルスも、そしてカナンでさえそう望んでいるに違いないのだ。  そしてその事を、シェキーナ自身も拒むつもりは無かった。  真似事とは言え、シェキーナもエルナーシャから「母様(かあさま)」と呼ばれているのだ。  自身を母と呼び慕う娘を、シェキーナも放っておく事など出来なかった。  正しく足を引きずるように、シェキーナはその重い足取りを止める事無く歩き続けたのだった。
/349ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加