絆創膏の下

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絆創膏の下

 同僚の指には、いつも確実に一枚は絆創膏が巻かれている。  手先が荒れやすく、スキンケアに気を配っていても、何かの弾みで皮膚が裂けてしまうらしい。  肌が弱いのは大変そうだと思っていたけれど、ある時洗面所で、絆創膏を貼り換える同僚を見てしまった。  剥がされた絆創膏の下から現れた傷は、まめで口のようにパクパクと動いていた。 「もう! おとなしくしててよね! 絆創膏だってタダじゃないんだから、毎日貼り換えなきゃいけないくらいボロボロにするのやめてよ!」  小声ではあるが、怒りの感情をあらわにして、同僚がパクパク動き傷にそうつぶやく。その光景を見てしまったことを気づかれぬよう、私はそそくさとその場を後にした。  今日も同僚は指に絆創膏を貼っている。位置は時々変わるから、どうやら『アレ』は指を移動するらしい。  いったい『アレ』は何なのか。聞いてみたい気もするけれど、そこそこ仲がよいとはいえ、あくまで仕事場での付き合いがあるだけの相手。立ち入ったことは聞くべきではないだろう。もしかしたら、聞いたことで何かとんでもないとばっちりがくる可能性もあるし。  私は何も見なかった。その姿勢を貫いて、同僚とはこれまで通りの関係性を保っていうこと思っている。  でもたまになら、ドラッグストアに立ち寄った時に徳用袋の絆創膏を買ってプレゼントしてもいいかな。 絆創膏の下…完
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