実話怪談 白いふわふわのお姉さん

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 辺りは少しうす暗くなっていて、風もなく林は物音一つしませんでした。何か嫌な予感が頭をかすめたのをよく覚えています。そういえばいつも聞く春セミの声もその時はほとんどしませんでした。  ざくざくざく、と落ちた松葉を踏みしめる自分の足音が良く響きました。辺りが不意に暗くなって、何か大きな生き物に丸呑みにされるような心境がしたんです。  道の中ほどはもう一本別の道と繋がって十字路になっているんです。後に聞いた話では、ちょうどその十字路のところで女が首を吊ったんだそうです。  その十字路に差し掛かったときでした。 「うわぁぁぁああああ!」  弟が突然真上を見上げて悲鳴を上げたんです。弟の双眼は恐怖に見開かれ、声にならない声をあげて、その場で固まってしまいました。  おかしい! と僕は思いました。弟の反応はどう見ても普通じゃなかったんです。  すると、雑木林の木の枝が風もないのにざわざわ、ざわざわと音を立て、小枝がパラパラと落ちてきました。  ぎっぎっぎっと音がしました。頭の上で何かが揺れているようなんです。  頭上に異様な気配を感じました。僕は恐怖で上を見ることはできなかったんですが、後から思えば見上げなくてよかったと思います。  見て、恐怖にすくんだら、きっとそれに捕まっていたでしょうから。  逃げよう。とっさに思いました。僕は弟の車の紐を引っ張ってその場を逃げようとしました。するとボキッと音を立てて、紐をくくっていたハンドルが折れました。  その時はパニックになっていたんでしょうね。僕は弟と車を両脇に抱えて、一目散に走りました。本当に必死でした。  振り返らず、本当に全速力で、男の子の家の前を駆け抜けて、林の小道の入り口にあるお屋敷の脇まで来て。  やがて林を抜けて、開けた道路まで逃げました。もうすぐそこに僕の家があります。  そこで初めて振り返りました、小道の入り口が夕日を浴びてぽつんと口を開けていました。背後には何もいませんでした。
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