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お坊ちゃまは18代目
裏庭の木陰だけが、私のための場所だった。
お昼ごはんのサンドイッチを片手に、ぼんやりと蔦のからまったアーチだとか、その奥にある噴水などを見て、時間をつぶすのがいつものことだった。
冬のせいなのか、それとも一年中そうなのか、噴水は水を溜めるだけで、いかにも寒々しく見える。
けれども、その景色だけは、ついこの前まで私が住んでいた街を思い出させて、ほんのちょっとだけ、この学校の中でも自由に息ができるような気持ちになれた。
あまり人も来ないのは、鬱蒼と木々がしげっているせいなのかもしれない。
明るく、輝かしい、このキラキラした雰囲気の学校にあっては、この場所の影は不要のものだ。
生徒たちは上品で、豊かで、何かしらの才能にあふれていて、きらめいている。もしくは、今は持っていないとしても、それを補うだけの野心があった。
いつか何者になるのだ、という決意。
芸能科の学生はもちろんのことだけれど、普通科だって国内のトップ大学か、海外の有名な学校に進むことしか考えていない。
一学年は100人ちょっとしかいなくて、ほとんどが顔見知り。そんなところに、季節はずれの転入生として入ってきたのが間違いだった。
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