おれの知らない碧さんのこと

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 莉奈は昨日碧さんが男を連れ込んでいたと信じ込んでいる。風邪を疑っているのだ。 「あまりに強情だからファンデは諦めて、一緒に教室行こうって念押しして引きとめてからあたしだけトイレの個室に入ったんだけど、そのとき見ちゃったの」 「今度はなんだよ。トイレの花子さんでも見たのか?」  疑おうと思えばなんだって疑えるものだ。そんなつまらないことに心血注いでいる莉奈に付き合うのは疲れてきた。 「便座に立って扉の上からこっそり覗いたら原川さんマスクを取って鏡を見ていたの。頬が赤く腫れていたよ。あれはきっと男に殴られたんだよ」 「……え?」  休憩時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、それ以上は聞けなかった。  いや、わざわざ莉奈に聞く必要はない。碧さんに直接話を聞けばいいんだ。  席に着きながら反対側の席に座る碧さんの様子を伺うと目が合った。  表情はほとんどわからないけど軽く手を振って合図を送ってくれる。  教室内であからさまに親しさをアピールしてくれるのは初めてのことでむちゃくちゃ嬉しいのに、素直に手を振り返せないのはなんでだろう。  ※  放課後、いつものように碧さんを公園まで送っていった。  散々おれを煽った莉奈はさっさと帰った。あとは二人の問題だとでも言うように無関心を貫いている。     
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