ウソ告だった。なにも始まらないはずだった

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 だって排出率すごく低いのに。なんでお試し期間の一日目にこれが当たるんだよ。  スマホを放り出したい衝動に駆られたが碧さんのものなのでそれはできない。  食い入るように画面を覗きこんでいた碧さんは何度か瞬きして状況を理解したらしく、驚いたような顔をおれに向けた。 「これ、鴇田くんが入れたんだよね」 「うん……排出率は低めにしておいたんだけど、当たっちゃったみたいだ」  気恥ずかしさで碧さんの顔をまっすぐに見られない。これじゃあ昨日とは真逆だ。 「ありがとう」  なにが「ありがとう」なのか。横目で見た碧さんの頬が嬉しそうに上がっている。 「わたしと手つなぎたいって思ってくれたんだね。ありがとう」  満面の笑顔で子どもみたいに浮かれている。  そんな嬉しそうな顔しないで欲しい。こっちがドキドキする。 「じゃ、つなごうか」  そう言っておずおずと左手を伸ばしてくる碧さん。震えている指先の中でも小指は痙攣するようにピクピクしていて可愛かった。手をつなぐと言っても初めてのときはどうしたらいいのかわからないもんな。 「えと、じゃあ、遠慮なく」 「あ、待って」  指先に触ろうとしたら磁石みたいに弾かれた。 「ごめんなさい、爪に絵具が入り込んじゃってる。水道で洗ってくるから」     
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