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しかし莉奈は小走りで追いかけてきた。肩を並べて歩くことになってしまったが微妙に歩幅が合わないせいでおれのテンポが狂う。
「ねぇ聞いて。昨日さ、原川の靴が汚れていたから白い絵具を塗り込んであげたんだよ。原川ってばそれ知らずに履いちゃって、めそめそしながら水道で洗ってたの。あたし言ったんだけどね、乾くまで待ったほうがいいって」
爪に絵具が入り込んでいたのは莉奈たちのイタズラのせいだったのか。
「最低だな、おまえ」
「え? なに? なんて言ったの?」
とぼけつつも威嚇的な眼差しを向けてきたので怯んだ。
「だから、ちゃんと謝れって言ったんだよ」
以前だったらこのまま引いていただろう。
莉奈は小さい子どものように目を丸くして首を傾げた。
「だって原川だよ? 地味で暗くてぼっちで、あたしが気にしてあげなくちゃ泥の中に沈んでいてもわからないような原川だよ?」
莉奈はいじめているつもりはないのだ。
相手にしてあげている、構ってあげている、むしろ関心をもっていると自負している。限りなく真っ黒な善意なのだ。
「それでも」
「そんなことよりウソ告したの?」
他人の言葉なんかより自分の興味が優先。莉奈はおれの腕をがっちり掴み、いかにも好奇心満々というふうに身を乗り出してくる。
「……したけどフラれたよ」
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