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碧さんは落ち着きなく黒縁の眼鏡を押し上げた。声は震えていて、円らな黒目をこちらに向けようとはしない。いまの彼女にとって、さしずめおれは目を合わせたら石化してしまうメデューサだろうか。
おれは所在なく手をこすり合わせながら慎重に言葉を選んだ。
髪は真っ黒、それも左右で三つ編みにしている古風な碧さん。高校二年になって金茶や紫なんて髪色が乱立する教室内で彼女は異質だったし、その異質さを貫く無関心さと芯の強さがあった。だからこそあの女に目をつけられたのだ。
――原川ってなんか気持ち悪いよね。ねぇ晴臣ウソ告しなよ。『はる』つながりで合いそうじゃん?
クラスの中心人物であるアイツに言われるまま告白し、いまに至る。
「告白した理由なんて、そんなの、好きになったからだよ」
無難な答えを口にする。こんなところが好きになった、と説得力のある場面を思い出そうとしたけどひとつも浮かんでこなかったから仕方ない。
「へ、へぇ、鴇田くんって意外と行動派なんだ」
ぎこちないものの笑ってくれる。だけど視線だけは断固として爪先に向いたまま。その目をこちらに向かせたかった。
「それより条件ってなに?」
そう告げるとやっとおれを見た。黒縁眼鏡の奥で淡褐色の瞳がくりくりと揺れる。
「それなんだけど」
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