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――人をひとり、ゆずってほしい。ティル・ナ・ノーグの闇の中で、わたしはその人間と同化する。そして闇のふたが開くのを待ち、今晩、わたしは真の人間となり、この世にもどる――
「な……なにを言ってるの……? そんなの……そんなこと、できるわけないじゃんっ!! いけにえになっていい人なんて、この世にいるわけないでしょっ!」
――では、わたしはどうなる? わたしはどうなってもかまわないと言うのかっ!?
たった……たった、ひとりでいいのだ。おまえでなくともよい。だれでもよい。その娘でよいっ!! ――
稲光で、あたりが明るく染まる。
黒いローブのすそが、風が巻き起こったように広がった。
足元の地面に、黒い蜘蛛の巣のような裂け目が、放射状に広がっていく。
裂け目の下で口を開いているのは、ティル・ナ・ノーグの闇。
「杏ちゃん、逃げてーっ!! 」
震えている小さな肩を、あたしは後ろに押し出した。
地面がひび割れていく。
ティル・ナ・ノーグの闇が広がっていく――。
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