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「ごめん。いまだに目に見えているものが信じられない……」  浅山の砲弾倉庫跡で、真央ちゃんが目をこすってる。  古代ヨーロッパの遺跡みたいな赤レンガ造りの部屋の中で、有香ちゃんもさっきからずっと、まばたきをくり返してる。  その部屋の真ん中にクローバーの葉をあつめてつくったベッドがあって、中でヒメが横向きに丸まって眠っていた。  腰まで流れる金髪。白いロングドレス。人間の手のひらサイズしかないヒメの背には、銀色にかがやくトンボの羽がはえている。  あたしは、有香ちゃんと真央ちゃんといっしょに、ヒメの前にしゃがみ込んでいる。 「……妖精……だよね。本物の……」 「……だな」  倉庫の壁に背中でよりかかって、ヨウちゃんがしらっとつぶやいた。  自分だって、はじめて妖精を見たときは、あわてふためいて、ビビりまくっていたくせに。そんな過去は、まったくわすれたふりしてるんだから、いい気なもん。 「つ~か、こいつ、産後なんだから、静かにしとけよ」  クローバーの中で、ヒメは両手に大きな白い玉を抱いている。まるきりアメ玉サイズ。ヒメの口元はほころんでいて、幸せな夢を見ているみたい。 「えっと……妖精に、タマゴを産ませるには。好きな花に、別の花の花粉を何種類かあわせて受粉させ、受粉させた花を、一週間、妖精に抱いて寝かせる。運がよければ、一週間後の朝、花はタマゴにかわる。成功する確率は、十パーセント」  誠がふむふむと、ヨウちゃんのノートを読みあげた。  そうなんだ。  ハロウィンの日から、ヨウちゃんと話し合って、真央ちゃんと有香ちゃんには本当のことを話すって、決めたんだ。 「相手が信じるかどうかは別として。隠すような悪いこともしてねぇだろ。ふたりは綾の親友なんだし。言いふらしたり、浅山を荒らしたりするようなやつらじゃない」  ヨウちゃんてば、さらりと言った。なやんだのは、あたしのほう。  なんかさ。胸の奥にある、むやみやたらと人に見せたらいけない部分を、見せるような気がしてさ。  それでも、ハロウィンの一件から、どうしても納得できないって、ふたりに言われ続けていて。ともかく、現実を見てもらうことにしたんだ。
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