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教室の窓際の一番後ろ。自分の席にほおづえをついて座って。
オレは、廊下側の一番前の席へ、目をこらす。
そっちは日が当たらずに、うす暗い。さらに、目の前をクラスメイトたちが行きかうから。たれ目の綾の横顔が、今、どういう表情をしているのかわからない。
よりによって、こんな席。
教室の対角線上。はじとはじ。
けど今は、くじ運の悪さより、きのうの自分の行動のほうが、うらめしい。
ヤバイ……。綾と話せない……。
なんでオレ、きのう、卯月先輩をもっと早く追い出さなかったんだっ!
とつぜんハイテンションで、カフェに入ってきた先輩は、オレの顔を見ると、ためらわずに二階にのぼってきた。本をさしだして。「読んで」って。
「追い出せ」という感情が、すぐに脳みそにのぼってこなかったわけは、あの卯月先輩の愛読書だっていう本が、けっきょくオレも気になってしまったからだと思う。
おもしろい本だということは、わかっていた。
この前、図書館で借りたケルトの伝説を、さらに掘り下げたような本。
だから、反応が遅れた――。
休み時間をもてあましていた男子たちが、ざわついている。
見ると、教室の後ろのドアに、見慣れない女子が立っている。
卯月先輩っ!?
オレと目が合うと、グロスを塗ったくちびるがふっとほほえんだ。
「葉児君、ちょっと~」
白くて長い指で、ちょいちょいと手招き。
おそろしい……。執念深い白蛇みたいだ。こんなとこまで……。
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