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   ★  手のひらにまだ、ぬくもりがのこっている。  夕日の熱が、横からオレのほおを焦がしていた。  綾はもう、羽がなくても生きられるんだって、実感した。  だいじょうぶだ。  オレたちは、ファンタジーがなくても生きていける。 「葉児? なにしてるの……?」  階段の上からかあさんの声がきこえて、オレはハッと首をあげた。  ふり返ると、地下へ向かう階段のとちゅうで、かあさんが眉をひそめて、オレを見ている。 「鍵はここよ」  だけど、さしだされた鍵を受け取らずに、オレは目の前にそびえる重たいドアから背を向けた。  かまわない。  とうさんの書斎にはもう、用がない。  卯月先輩に見せられたチラシや、本にまどわされたりしない。  二階の自分の部屋にもどると、ベッドをつけた窓際で、センペルビウムの綾桜が待っていた。バラの花のようなロゼット状の葉は、またひとまわり大きくなって、ブリキ缶の中で、まわりにいくつかの子株をしたがえている。 「子株も、そろそろ親元から切りはなして、植えかえねぇとな……」  あまりきつい缶に、ぎゅっとつめこまれたままでは、これから大きく育つ葉も枯れてしまう。 「かあさん、空いたかんづめ缶ある?」  綾桜を手に、一階のカフェにおりる。  空き缶をいくつかもらって、庭におりると、空に月が見当たらなかった。星はチラチラとまたたいているのに。
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