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事件現場での取材をはじめて、多分数日は経ったのだと思う。何しろ鬱蒼とした森の中、僅かに見える空が黒い雲に覆い隠されているともなれば、日が昇ったのか落ちたのかもあまり分からない。 スマホの電波も、随分前から圏外となったまま。予備バッテリーは使い果たし、残り電池も20%を切った。これでスマホの電池が切れたら終わりだという理性は働いているのだけれど、懐中電灯がいつの間にか壊れてしまった今、何かの間違いで電波が回復してくれるのではないかとの期待を込めて、セーフモードの暗い灯りに縋ってしまうのは仕方のないことだと言いたい。 遭難、という文字は随分前から頭に過っていた。先人たちの教えのとおり、こういう時は、登れるだけ登ってしまうのが正しいのだろうと分かっている。 けれども、持ってきた食料はカロリーメイトだけ。それを食べるには口も喉も乾きすぎていて、とても胃に物を送り込める状況になく、身体もまた、電池切れ寸前だった。 これだけ曇っているのに雨一粒たりとも降らないのが、いっそ憎らしい。立っていることさえしんどくなったので、素直に腰を下ろし、ぱさりと下草が乾いた音を立てた。これほど追い込まれた状況にあっても、いや、これほど危機的な状況にあればこそ、諳んじている今回の事件の概要を、脳が勝手に復習し始める。
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