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そのことを話すと、死神さんは花瓶に生けてあった綿華草を一本食べて、私を指差しニコッと笑いました。それで「ちゃんと見えるようにしたよ」と言いました。
最初は半信半疑でしたが、ちゃんと母の顔を見て本当だったんだと安心しました。
今、死神さんはこの病室にはいません。私のお願いで外に行っています。
次のお願いは『友達の写真が欲しい』でした。死神さんは手のひらで私の目を伏せさせました。
しばらくして「できたよ」と声を掛けます。死神さんの手には写真がありました。それには確かに昔、一緒に遊んだ友達の姿映っています。
私はその写真を見て一瞬だけ笑みが零れましたが、だんだんと悲しくなりました。
「この写真じゃないわ」
私が欲しい写真は昔の友達の姿じゃなくて、今の姿だったんです。
死神さんは写真を片手に今の友達を探しに行きました。
母はいつものように花を生けたら帰っていきます。ここには長く居られません。
私は生身の母の姿に、思わず手を振りました。母は不思議そうに動きを止めましたが、小さく笑って手を振り返してくれました。
母が去ってから私はベッドの下を覗き込みます。
「オレオ、もういいよ」
死神さんは猫を連れていかず、ここに残しました。
「さっきの人は何だ?」
「私のお母さん」
「あのへんてこりんな服は?」
へんてこりんな服っていうのは防護服のことでしょう。猫にはちゃんと本当の姿が見えているようです。
「仕方ないよ。こんな病気だから」
私は自分の髪に触れて笑いました。
すると、猫は申し訳なさそうに項垂れます。
「お母さん、老けてた」
私はそんな猫を見ながら小さく笑います。
「でも、もうそろそろ解放されるから、きっと若返るよね」
そんな願望を口にしてから、死神さんに頼むことを思い付きました。
猫は悲しそうな目で私を見ます。
「おめえさんは生きたいとは思わないのか?」
その瞳は明らかに同情の色に満ちていました。
「思わないわ」
私は笑って、猫の頭を撫でます。同情くらい慣れてます。
「だって、生きることは消耗だもの。いつまで続くのか嫌になってたところに死神さんたちが来てくれて、今とてもほっとしてるの」
本心をそのまま吐き出します。やっと死ねることが嬉しいんです。
だけど、その自分の言葉を聞いて、無性に悲しくなって涙が零れ始めました。
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