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だって、迷いがない訳ではないんです。ずっとこのベッドに居て、ずっと疑問に思っていました。
私は何のために産まれて生きて死ぬのだろう。こんな人生に何の意味があったのか見出だすことが出来ません。
「ごめん。無神経だった」
猫は私に謝ります。私は何も言わずに、ただ泣くだけです。
今の私が口を開くと、多分猫に酷いことを言ってしまいます。
だから、ただずっと泣いて困らせる方を選びました。
私の主治医は痩せ細った、神経質そうな男でした。いつも防護服姿しか見ていなかったので、なんだか慣れません。
いえ、違います。防護服姿にも別に親しみのようなものはなく、いつも緊張していました。慣れるも何もありません。
死神さんが友達を探しに行って五日が経ちました。
そろそろ死ぬとわかったときは嬉しかったのですが、なかなか死ねません。意外と私はしぶといです。
主治医は採血をしたあと、そっと私の髪に触れました。
しぶとくても、死の兆候は出ています。私の青々とした髪がだんだんとくすんで、枯れ始めていました。
主治医は何も言わず、何事もないような振りをして看護師と一緒にこの部屋から出て行きました。
「――お待たせ」
そのすぐあとに死神さんが帰ってきました。
死神さんは笑顔で私に写真を見せます。それは確かに私が頼んだ通りのものでした。
写真の中の友達は皆、昔より背が伸びていて、幸せそうに笑っています。私は「ありがとう」と口だけのお礼を言いました。
写真を――成長した友達の姿を見て私はもっと楽しく月日の経過を祝福できると思っていました。
別に妬ましい訳じゃありません。ただ、心が晴れないんです。
「皆、どんな感じだったの?」
私は写真を見ながら、死神さんにそう聞きます。
死神さんは小さく笑って、会ってきた友達の話をずっとしてくれました。
久しぶりに人間と長く話すのは疲れます。正しくは死神なので、人間とは違うかもしれませんが。
死神さんが居ない間、ずっと猫と話し相手になってくれましたが、やっぱり猫と人間は違います。猫の方が幾分、気楽です。
「なあ、助けてやれよ」
話し疲れて眠っていたのに、猫の言葉で起きてしまいました。
「あの子の病気、治そうと思えば治せるんだろ? 死神の振りなんかやめてさ」
夢か現かわからない中にいたのに、すっかり目が覚めました。
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