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さっきまで父親をジーッと見ていた目をこちらに向けて、私をジーッと見ているんです。
私は反射的にニコっと笑い返したのですが、そこで気付いたんです。
さっきまで原因の分からなかった違和感。
父親は、さっきからこの子に笑いかけていないんです。
それどころか話かけもしない、目も合わせない。
本当に父親なのか?
どこからか誘拐して来て、今からこの子を……。
そう思う一方で、こうも思ったんです。
知らない大人に、こんな小さな子がこんなにも懐くものなのか?
やっぱり殺人犯は勘違い、この二人は父娘なんじゃあないのか?
気付くと、父親も私の表情を窺う様にこちらを見ていました。
右手が動き、ポケットに手を忍ばせ、何かを握ったみたいに膨らみました。
「運転中にあまり余計な事を考えていると、命を失う事もありますよ」
気付いている。私が何を考えているか気付いている。
いや、考えすぎ。ただ不注意運転を心配しているだけかも。でもやっぱり……。
ああ、乗せるんじゃなかった。止まるんじゃなかった。
自分の軽率さを悔やんでいると、前方に明かりが見えてきました。
町に出たんだ。これで二人を降ろす口実が出来る。
その後で通報しよう。間違ってても良い。この女の子の命がかかっているかもしれないんだ。
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