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あれは三ヶ月前のことだったね。
君には云わなかったけれど、あの時僕は前の彼女に振られたばっかりで、とても深く傷付いていたんだ。
もう二度と恋なんてするもんか、そう思っていた。
でも、そんな時に、近所の商店街の乾物屋の店先で、僕は君を見付けてしまったんだ。
僕は君を見た時、全身にビビッとこう、電気ショックのようなものを感じた。昔から、運命の相手と出逢った時には解るって云うけど、あれがそうだったのかなあ。
上手く云えないけれど。
とにかく、僕は一ヶ月悩みに悩んだ末、遂に君を家に連れて帰ることに成功した。
あの時はもう、ドキドキもんだったよ。
何せ、僕の家にちょくちょく遊びに来る僕の兄貴は、君みたいな子が大好きな訳だからね。
君が兄貴に見付からないように、僕は毎日それだけを祈っていた。
あの頃の僕は幸せだったんだ。
一日中、君だけを見て過ごした日もあったね。
僕は君を余すところなくじっと見詰め、時々君を触ったりもした。
君は君で、僕に、いやらしい目で見ないでよ、とか、触らないで、この人さらい、とか云わずに、ずっと黙って、じっとしていてくれたね。
君の細い手足は、見た目よりもずっと細くて、僕はびっくりしたのを覚えている。
僕は幸せだったよ。君に何をされても構わないくらい幸せだった。例え、君がその細くて長い手で、僕に往復ビンタを食らわそうと、剣で串刺しにしようと構わない。それほど、僕は君のことが大好きだったんだ。
でも、君は兄貴に盗られてしまった。
それは、年の暮れの、寒い寒い日のことだった。
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