君への想い

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 その日兄貴は、夕食の後、僕を晩酌に誘った。僕は、風呂に入ってくるから、先に始めててくれとだけ云って、風呂に入った。でも、今思えば、あれが間違いの始まりだったんだよね。  僕は何も知らないまま風呂に入って、何も知らないまま風呂から上がった。そして、兄貴が一人で酒を飲んでいるであろう居間へと向かった。  居間の引き戸を開けると、僕の目には、信じられないような光景が飛び込んできた。そこには、コタツでぬくぬくと酒を飲んでいる兄貴がいた。しかし兄貴はどうでもいい。コタツの上に乗っているものが問題だったんだ。  コタツの上には、ビールの中瓶と、ビールの入ったガラスコップ、あぶって細く裂いて皿に乗せられた、するめがあったんだ。  そう、するめが。  変わり果てた、君の姿が。  僕は一瞬何が起こったのか解らなかったよ。  あんなに大事にしていたのに。  大好きで大好きで、どこにもやりたくなかったのに。  そして、兄貴はその時、僕にこう云った。お前、自分の部屋にこんなもん隠しておくなよ、腐っちまうだろ―――ってね。  僕がすべてを理解した時には、僕は兄貴を殴り飛ばしていた。そしてそこにあったコートを羽織って、家を飛び出したんだ。  何故って?だって、兄貴はどうせ君をそのいやらしい手つきで、じっくりと足のほうからあぶっていったんだろう?あぶってあぶってあぶって、君の全身あぶりつくして、君が焼けるいい匂いがしだした頃、何のためらいもなく君の足をもいで体を八つ裂きにしたんだろう?だから、僕は兄貴を殴ったんだ。どうしても、どうしても兄貴が許せなかったんだ。  家を飛び出してひたすら走って、力尽きた後、空を見上げたら、星がきれいに出ていた。でも、せっかくのその星も、涙でにじんで、見えなくなったけれど。  僕は君が大好きだったのに。  よりによって、兄貴に盗られてしまった。  兄貴、に。
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