哀愁のわかめ御飯

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 こんな早朝に何をしていたかと云うと、僕はどうしても眠れなくて、どんなことを試みても眠れなかったので、「どうせなら徹夜しちゃえ」というノリで、趣味の書き物をしていた。  要は暇つぶし、である。  ショートショートを何本か、エッセイにも似た詩を3本ほど書いた頃だったろうか。 ふっと、わかめ御飯が食べたくなった。 わかめのたっぷり入った、ちょっと塩気が効き過ぎと思しき、あのわかめ御飯だ。  何故かは知らない。 しかし、突然、どうしようもないほどに食べたくなったのだ。  僕にはこんなことがよくある。特に夜中や授業中、お腹が空いている訳でもないのに、妙なものが食べたくなる時が。  僕が記憶している限りで、こう云った「突然妙なものが食べたくなる症候群」のターゲットとなった食べ物は、チョコチップクッキー、チョコレートクッキーの入ったバニラアイス、八宝菜、鶏の唐揚げ、作ってから半日ほど経って海苔がぶよぶよにふやけたお握りなどなど、日常口にする機会の多いものだ。どれもありふれたものだけに、猛烈に食べたくなる。食べたことの多いものだけに、味などが妙にリアルに思い起こされ、余計に食欲をそそる。  そして、今僕に取り憑いているのが、わかめ御飯なのだった。 温かさは問わない。コンビニの冷たいお握りでも、炊き立てのものでも良い、とにかく僕の身体は、猛烈にわかめ御飯を求めていた。  しかし僕はただひたすらわかめ御飯の煩悩を取り払おうと努力していた。わかめ御飯を忘れるため、書きかけていた恋愛物の小説に手を出した。しかし頭の中はわかめ御飯でいっぱいだ。主人公も、ヒロインも、わかめ御飯と云うフィルターを通してしか見ることが出来ない。云うなれば、わかめ御飯の上で恋愛話を繰り広げているようなものだ。食事のシーンでもないのに、あちこちにわかめ御飯が散らばっている。自分で書いた小説のくせに、このシーンには実は背後のベンチに通行人Aが座っていて、夥しい数のわかめ御飯のお握りを食しているのではないか、と云うアホな妄想さえ浮かんでくる。ここまで来れば、もうどんなことをしても無駄だった。僕は完全に、わかめ御飯に支配されてしまっていたのだ。
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