哀愁のわかめ御飯

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 僕はどうしようもないと云うことを悟り、書きかけていた小説を再保存し、横になって布団を被った。もともと眠くないのだからこんなことをしても眠れようはずもない。ただわかめ御飯に取り憑かれて、何も出来なくなっただけなのだ。  少し冷静になった僕の思考回路に、わかめ御飯は更に深々と入り込んできた。僕が目を閉じれば、そこにはわかめ御飯が見える。限りなく本物に近いリアルなイメージを、僕はイメージの上で食べた。わかめ御飯特有の磯の香りが、わかめ御飯を含んだ時に口の中はおろか鼻腔にまで広がる。良く効いた塩気が、御飯の持つ甘味そのものを何十倍にも引きたて、御飯粒と適度にふやけたわかめは唾液を受けて舌の上を滑り、そのまま奥へと飲み込まれてゆく。そんなことが、無数に繰り返されるのだ、僕のイメージの中で。  しかし、所詮はイメージだ。イメージであって現実ではない。僕の身体が狂おしいほどに求めているのは、わかめ御飯のイメージではなくわかめ御飯と云う現実に存在する物体なのだ。それだけなのだ。それさえ手にはいれば、僕は限りなく満たされるのだろう―――きっと。  僕の葛藤は、延々続いた。僕に憑いたわかめ御飯と戦っているうち、僕は何時しか夢の中へと旅立っていたらしい。  夢の中の僕は、白いテーブルに就いて、ただひたすらわかめ御飯を食べていた。いや、食べていたと云うより、貪っていたと云った方が適当かもしれない。とにかく、僕はわかめ御飯を凄い勢いで食べ続けていたのだ。終いにはお櫃から茶碗によそうのさえも面倒になり、僕はお櫃を抱えて食べていた。ところがこのお櫃、幾ら食べてもわかめ御飯が山と入っていて、ちっとも減らない。僕は夢の中でこのわかめ御飯を全て平らげなければならないと云う強迫観念のようなものがあり、わかめ御飯を食べ残すことなど出来なかった。   初めはただ身体の求めるままに食べることが出来たが、やはりわかめ御飯、途中で飽きてくるのは必至だった。僕はそれでも食べ続け、貪り続けた。何物にも代え難い満足感は、次第にどうしようもない苦痛へと変化していった。 「嫌だぁ、もうわかめ御飯いらない、御馳走さま、御馳走さま!!」  僕は必死だった。がつがつとわかめ御飯が入り続ける口を必至に動かして、そう叫び続けていた。誰が聞いている訳でもないと解っているはずなのに。
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