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「なあ、竹ってさ、ライト透さないのかな」
雑木林の向こう側に目を凝らした。そこは孟宗竹の生い茂る場所だった。好奇心に駆られて、試しに懐中電灯を消してみた。
真っ暗闇になってしまった。
もういちど点灯したけど、黒い木々に光が吸い込まれて、何も見えなかった。
「おい、何やってんだ? もう行こうぜ」
まことクンが急かした。
「あ、うん。わりい、わりい・・・」
僕は懐中電灯のスイッチを入れ直した。
でも、点かない。
これで、使える懐中電灯が2本になってしまった。
「なんか、ヤバい雰囲気・・・」
僕は何回もカチカチやったけど、電気が点かなかった。
みんな顔を見合わせた。
一目散に駆け出した。
何か変な物が見えたとかいうわけじゃない。得体のしれない恐怖がみんなを駆り立てのだと思う。
「わ、そんなに強く押すなよ!」
まことクンが怒ったように言っている。
慌てていたから、誰かがぶつかったのだろう。
僕にも誰かがぶつかってきた。
固まって走っているのだから、それも無理からぬこと。
全員、ありったけの力を振り絞って走った。置いてけぼりを食らわないように、みんな必死だったのだと思う。
住宅地の明かりが見えたときは、さすがにほっとした。
僕たちが帰って来た気配を感じたのか、親たち外に出てきた。
「おう、お帰り。収穫はあったか」
父親が虫カゴを覗き込む。
僕は、懐中電灯の電池が切れて、怖い思いをしたことを話した。
「あはは。そうかそうか、そりゃ、たいへんだったな」
と、笑って相手にしてくれない。
「だけど、そんなに走ったんじゃ暑かろう。西瓜を用意してあるから、みんなで食べなさい」
僕たちは扇風機の回る居間で、車座になって西瓜を食べ始めた。
みんな長袖を着ていたから、脱いで白いランニングシャツ一枚になった。
「お、どうしたんだこれは?」
父親はまことクンの背中をじっと見つめている。
僕もまことクンの背中を見た。
白いランニングシャツに黒い手形がついていたのだ。それは子供の大きさではなく、大人のものだ。
そして、今度は父が僕に向かって言った。
「お前にも赤い手の跡がついてるぞ!」
それ以降、僕たちは虫捕りをしなくなった。
平成30年、現在。
ネットで調べたところ、あの雑木林と竹林は保全管理されているらしい・・・
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