桃源郷

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桃源郷

はてしなく はてしなく はてしなく はてしなく はてしなく 眠い桃源境の淵を、私は彷徨っていた。 甘く白い霞の遥か彼方では、経文のような数Aの授業が聞こえてくる。 天にも昇るような、 天にも昇るような甘い心地は、私を苛み、この場へ留める。 抜け出さなくてはならない。 抜け出さなくてはならない、この甘い桃源境から。  ―――眠り。 何かが私に祟っている。 何かが私に取り憑いている。 悪魔でも、鬼でも、その他の何者でもない。 ただ、この桃源境へといざな誘う何かがある。 ゆったりと甘く白い霞に包まれてゆく。 全てをこの桃源境に置き去ったら――― …私は幸せになれるのだろうか? 私は甘い霞に尋ねた。 「Nさん、起きて下さい」 誰かが甘く白い霞の果てから私に声を掛けた。 私は相変わらずこの甘い桃源境を彷徨っている。 「Nさん!」 霞が…落雷のような響きと共に、あとかたもなく消え去った。 そこはそこは…いつもと変わらない、ごく普通の、日常の教室だった。 「確りして下さいよ、Nさん。大丈夫ですか?」 「あ…ひゃい」 笑撃の渦の中、私はあの桃源境とはかけ離れた地獄を見た気がした。 それでも私は時々、あの甘く白い霞のかかった桃源境をそこはかとなく彷徨う。 はてしなく、はてしなく甘い桃源境の中を 睡魔にいざな誘われるままに。 本作はフィクションです。実際の人物及び団体等とは一切関係ありません。
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