鏡の中に居る彼女

1/75
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/75ページ

鏡の中に居る彼女

夢を観ていた。  私は夢の中では蝶だった。長い長い眠りから朧気に醒め、身体を縮めて力なく、柔らかな風にそよいでいた。  私を覆う薄い衣は、それでいてしっかりと私を守っている。あれはいつのことだったろう――芋虫と罵られた私が、醜い姿を留めたまま、動けなくなってしまった。そうして意識は遠のき、まるで死んで干からびたように、そこに在った。  やがてきらびやかで暖かな陽光が降り注ぎ、私は初めて私の纏う薄衣を窮屈に感じた。思い切り身体を丸めると、薄衣は意外なほどあっさりと破れた。すぐに頭を持ち上げると、かつて見たことがないほど色に溢れ、喜びに蠢く世界が在った。私は幼い頃の姿そのままに私を守ってきた、今となっては用のない薄衣につかまって、ふやけた身体を思い切り伸ばした。見知らぬ父母と、自分は同じ姿になるのだろう、そう思った。 そこで、夢は、醒めた。  視界に飛び込んできたのは、朝陽に照らされた薄汚い天井だった。     
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!