鏡の中に居る彼女

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 大きな鏡に映る、この手は私の手。私が鏡に手を遣れば、鏡の中の誰かも、ぴたりと指を合わせてくる。やがて指先だけでは飽き足らず、私は指を絡めるように掌をついた。ひんやりと冷たい、硬くて平らなその『誰か』の掌は、私の体温を奪い、緩々とその柔らかさを感じさせるかのようだった。私は『誰か』を抱きしめるように両手をつき、その美しい顔を舐め回すようにじっくりと視た。  そして私はうっとりと瞳を閉じた。冷たい唇を貪った。ふと気が付くと、大きな鏡は、薔薇色に幾筋にも汚れていた。
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