鏡の中に居る彼女

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 あの『誰か』にもう一度逢いたいと思った。仕事が終わるとコンビニやスーパーで夕食を買ってまっすぐ家に帰り、パソコンにかじりついた。ネットでメイクのページを検索し、片っ端から見た。よく聞くファンデーションや口紅は理解できても、コントロールカラーやコンシーラー、ルースパウダーなど、実物を想像できない単語を山のように目にした。商品名はほとんどがフランス語表記のようだし、口紅ひとつとっても、信じられないくらいのカラーバリエーションがある。それに加えて、ターンオーバーだの、肌のくすみだのゴマージュだのと云った専門用語、数え切れないほどの化粧品ブランド、そこには想像よりも遥かに広大な未知の世界が広がっていた。  私は何度か検索を繰り返すうち、化粧品に関するクチコミを纏めたサイトに行き着いた。そこには化粧品に関する万を超すクチコミが寄せられ、自由に意見が交換出来るようになっていた。 『みなさんどうやって、自分に合うコスメを探したり見付けたりしているんですか?どうやって、メイクできるようになるんですか?』  投稿者は十代の女の子だ(と書いてあ)った。至極同感だと思った。全く世の女性たちには感心する。私が遭難しそうな世界を、みんなちゃんと掻き分けて、メイクの知識と技術を習得するのだから。  その彼女の質問には、多くの答えが寄せられていた。私はそれを逐一、丹念に読んだが、答えはどれも似たようなものだった。 『母または姉、もしくはカウンターのお姉さんに聞け。何が合うかは試すしかない』  私はこの答えを得て、一旦メイクに関する検索をやめた。そもそも私は男だ。化粧が出来るようになって、それでどうする。  何だか急にバカバカしくなってしまって、私はベッドに身を投げた。目を閉じればあの日の彼女が薄ぼんやりと浮かんでくる。華奢な指、薔薇色の唇、闇色の瞳――     
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