鏡の中に居る彼女

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 現実での私は、四十の迫ったオッサンだった。二十代の頃に結婚し子どもをもうけたが、諸事情により、離婚。慰謝料と称して有り金の大半を押さえられ、養育費と云う名目で毎月の給料を削られる。独身の頃は楽しかったアパート暮らしも、今の身にとっては、なかなかにつらい。  炊飯器に長時間保温されたまずい飯に、インスタントの味噌汁、納豆。みすぼらしい朝食をかき込み、新聞に目を通す。起きてから点けっぱなしのテレビは、延々と同じ情報を繰り返し流し続けている。ニュース、ニュース、ニュース、時々天気予報とおよそ興味の湧かない話題のコーナーに、まるで雑談のようなキャスターたちのおしゃべり。一通り新聞を読んだあとは、洗面に身支度。朝食の食器は流しに置いたまま。朝起きてから出掛けるまでのすべてが、この狭いワンルームの中で片付いてしまう。玄関を出てからも、いつもと同じ道を辿って、同じ駅から同じ電車に乗り、出勤。ひとりになってから数年、もういい加減この毎日にも飽きていた。  出勤すれば、私は一応係長。入社時に希望した企画部からは漏れ、経理課に回された。経済学部を出たからと云って、経理が得意でもやりたいわけでもなかったのだが、何の因果か十余年、一切異動なし。地味に昇進し、毎日数字と部下のチェックと上司のイヤミに追われている。     
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