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彼女とマスターは他愛のない話をして、お互いに笑い合う。その話を端で聞いていて解ったことは、彼女はメイクの仕事をしている、独り住まいの女性。今好きな人が居るが、何とその相手は女性らしい(マスターが「彼女は」と云ったから解ったのだが)。大きな仕事がやっと回ってきたらしく、今日は祝杯だと云っていた。
「ねえ、あなたはどう思う?」
咄嗟に私に話しかけたのだとは思わなかった。マスターがフォローしてくれたので、気付いたようなものだった。
「うふふ、ごめんなさいね。急に話を振って。他の方の意見も聞きたくて」
「どうやって女性を口説くのか、ですか?」
「ええ。私ずっとこうで、恥ずかしいけど男性からアプローチされたことがないから解らなくって。まあもとより男性に興味はないのだけれど」
「こんな美人に『興味ない』なんて云われたら、男としては残念だなあ」
「ほんと、私もマスターに興味が湧かなくて残念だわ」
彼女が意地悪そうに微笑み、マスターが大口を開けて笑う。
「で、どうします?」
「う~ん、やっぱりベタにデートに誘いますかね。食事とか」
「どういうところへ」
と、云われても困る質問だ。
「その人との関係にもよるからケースバイケースでしょうけどね、はじめはちょっとおしゃれな居酒屋とかですかね。いきなりレストランは敷居が高いし」
「で、デートごとにランクアップしていくのね」
「毎回ランクアップしていたら破産しますけどね」
「そっか~、なるほど」
彼女は私の方を向いて、腕を組んでしきりに頷いている。
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