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「じゃあ、いいんじゃないですか。同業者の方ならあまり効果はないかも知れませんが」
彼女はそっかー、と云って、たっぷりと注がれたグラスを傾ける。
「じゃあ、手始めにあなたをメイクさせてよ。ね、マスター、いいでしょう」
「ここに化粧品広げるのか?それは構わないが…」
私は男である。
「ええっ、ちょっと待ってくださいよ」
化粧なんて、勿論初めてである。
「大丈夫、私プロだから。それに凄くメイクが映えそうな、いい顔立ちなのよね」
そんなことを云われるのも、勿論初めてだ。
「まあまあ、何事も経験ってことで」
「マスターまで…」
「メイク落としもちゃんと持ってきているから、大丈夫よ」
ただ無邪気に笑う、本当に楽しそうな彼女を見ていたら――
私は頷かざるを得なかった。
彼女は例の大きなアタッシュケースもどきを開けて、その中から液体の入ったボトルとコットンを取り出すと、液体をコットンに含ませ、素早く私の顔を拭き取るように撫でた。その後コットンを何枚かに薄く裂き、額と両頬、顎に貼りまわす。
「結構乾燥してるわね」
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