鏡の中に居る彼女

　その間にカウンターの上には、様々な化粧品が並べられていく。よく見る口紅をはじめとして、鉛筆やペンのようなもの、色とりどりのアイシャドウ、何だかよく解らないボトルやケース類――ひとくちに化粧品と云っても、こんなにもバラエティに富んでいるのかと、少々驚いた。
　貼りまわしたコットンが剥がされると、白いクリームが顔全体に塗られた。彼女は両手で私の顔を軽く押さえると、今度はピンクのクリームを塗布する。
「色違いのクリームを何で何種類も塗るんですか」
「最初に塗ったクリームは乾燥防止の保湿クリーム。後のは化粧下地よ。メイクのつきともちを良くするの」
　塗った感じもあまり変わらないのに、役割はえらく違うものだ。彼女はその後、茶色のビンからとろみのある液体を指先に取り、スッスッと私の顔に伸ばした。先程のクリーム類とは違い、随分粗めにつけて、スポンジで顔全体に広げる。それが終わると今度は茶色い口紅のようなものをポツポツと部分的におき、指先で軽く叩いて、パフで粉をはたいてゆく。
　随分と工程を経るものだ。
　だんだんと彼女の表情が真剣味を深めていく。プロの職人の顔つきとはこう云ったものなのだろうか、まっすぐな視線がじっと私を捉え、離さない。
「視線だけ下に」