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一九四五年七月二四日・広島県・呉
二回に渡る空襲で傷ついた戦艦・日向に、煙突から黒い煙を後ろになびかせたポンポン船が近付いてくる。
その船上には白衣に身を包んだ複数の看護婦の姿が見える。
日向の負傷兵の手当てをするために呉の海軍病院から看護婦達が危険を冒してやってきたのだ。
ポンポン船は日向の艦首の手前で進路を変えると、爆弾の命中による浸水で沈み込んだ後部へと向かった。
日向の舷側からもやい綱が投げられ、ポンポン船の船員がそれを掴んで引き寄せ、船を日向に横付けする。
「私達は重傷者の搬送をします。逸井(いつい)さんらは軽傷者の手当てをお願い」
先頭を切って日向の甲板に上がった婦長と思しき腕章を付けた看護婦が続いて上がってきた看護婦に指示を出す。
「分かりました」
逸井と呼ばれた二十代前半の女性は周りを見渡し、第三砲塔の下に臨時の治療所を設けると決めると、丸めたゴザと救急箱を手に、そこに向かった。
残りの看護婦もそれに倣う。
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