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「はぁ……。」  取引先を回り終え車の助手席に座った瞬間、浪崎は小さく溜め息をついた。 「疲れた? 初日だから仕方ないと思うけど、これで会社に戻るから」 「はい」  会社へと車を走らせていた時だった。今まで無言だった浪崎が話しかけてきた。 「あの……一つ聞いてもいいですか?」 「何?」 「ずっと気になっていたんですけど、先輩もしかして東和大の櫻木怜さんですか?」  ドクン、大きく心臓が跳ねたのが分かった。東和大……もしかして、何か知っている? 「…………。」  何も答えない俺を無視して、浪崎は話を続けた。 「あの、私三葉大に通っていたんです。東和大とは結構近かったので、何度か見かけたことがあって。よく友達が先輩のことを話していたので、名前を聞いてもしかしたらと思って。でも……なんだか雰囲気変わりました?」 「……もう大学生じゃないからね、大人になれば変わることもあると思うよ」 「そうですよね。すみません、なんか知っている人に出会えてちょっと嬉しくて」  ハンドルを握る手がじんわりと汗をかいている。俺は今平静を保てているだろうか? 大学を卒業して五年、やっと忘れられそうだったのに。まさか大学時代の俺を知っている奴が会社に来るなんて。 「……浪崎さん、あんまり大学の頃の話はしないでくれますか?」 「え?」
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