5/34
前へ
/181ページ
次へ
 半分呆れて苦笑いを浮かべる俺を、翔大はキラキラした瞳で見てくる。そんな視線から目を逸らすと、黙ってヒレカツを口へと運んだ。  俺のどこがそんなに良いのか、翔大は出会った時からこうだった。背が高いことが羨ましいとか、髪型真似したいからどこで切っているのか知りたいとか。  まるでずっと尻尾を振り続けてついてくる小型犬のようだ。おしゃべりなのはたまに傷だが、悪意がないから俺は安心して仲良く出来ている。  笑顔の下で何を考えているのか分からないような人間が一番怖くて、一番嫌いだ。その点翔大は良いことも悪いことも言ってくれる。言った後によく後悔している姿も見かけるが。  人の長所と短所は紙一重。荏原先輩の場合優しくて面倒見が良いのが長所なら、短所は少々おせっかいがすぎる所だろう。実際……。 「先輩が告白を断るのは好きな人がいるかららしいですよ」 「そうなのか? 同じ会社の人か?」 「秘密です」 「本当に秘密主義だな。でもお前ならすぐ付き合えるだろ? 片想いなんてらしくない」  不思議そうな顔をする荏原に、翔大は思い付いたように言った。 「あ!! あれですか!? 高嶺の花ってやつ。先輩でも落とせないようなすごい人。それか……まさか、不倫?」  思わず拳を握ると軽く翔大の頭を小突いた。 「違う。ただの片想いなだけだよ。翔大、気を付けろよ。お前が話すと次の日にはあっという間に噂になりそうで怖い。知ってるだろ?俺が噂話嫌いなの」 「……そうでした。先輩には嫌われたくないですから!! 気を付けます!!」
/181ページ

最初のコメントを投稿しよう!

464人が本棚に入れています
本棚に追加