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「こっちが食堂、昼は外に食べに行ってもいいから」 「はい」  俺の説明一つ一つに浪崎は返事をした。緊張で顔が少し強ばり、メモを片手にしている様子が入社当時の翔大と似ていた。真面目な人、そんな第一印象だった。  駐車場で車に乗り込むとエンジンをかけた。まず始めに行くのは長く取引をしている大事な会社だ。自社の製品の売れ行きだけでなく、いろんな意見を聞きに行く。 「先輩が運転するんですね」  やっと口を開いたかと思ったらそんな質問で俺は思わず隣を見た。仕事内容でもなく、会社のことでもなく……それ? 「別に浪崎さんが運転してもいいけど、取引先の会社の場所知らないでしょ? 時間に遅れるわけにはいかないから」 「そうですよね……すみません」 「謝らなくていいよ。慣れたら運転してくれてもいいし」 「はい」  やっぱり女はやりにくいな。翔大の時は……ああ、緊張はしてたけど、よく話す奴だったからか。会話が途切れることがなかったというより、聞いてれば良かったから結構楽だったんだ。  とくに会話もないまま二十分程車を走らせると取引先の会社へと着いた。五階建ての建物に、隣に駐車場がある、とくにこれといって特徴のない建物だ。 「浪崎さんは隣にいるだけでいいから。何か言われてもとりあえず笑顔で」 「は、はい」  強ばっている頬を浪崎は両手でクイッと押して笑顔を作った。目の笑っていないその笑顔に俺は少しだけ不安になった。
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