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「お待たせしてすみません」
担当の加藤さんが申し訳なさそうに応接室へと入って来る。加藤さんは三十代半ばくらいの男性で、タレ目のせいかいつも微笑んでいるように見える。
「櫻木さん、こちらの女性は?」
「はい。今日からうちの会社に入った浪崎です」
「な、浪崎栞と言います。よろしくお願いします」
深々と頭を下げた時、後ろで束ねた髪の毛が前に垂れ下がり馬の尻尾のように見えてしまった。相変わらず耳は真っ赤で、上げた顔は更に赤くなっていた。
「初めは緊張するよねぇ。あ、でも櫻木さんは初めから変わらないね」
「そうですか? 僕も緊張していましたよ」
「いやいや、荏原さんの隣でずいぶん爽やかに笑う新人が来たなぁと思ったよ」
「加藤さんが優しい方で内心すごくホッとしてましたよ」
「櫻木さんは上手いねぇ。おっと、いけない。仕事の話もしないとね、浪崎さんに世間話だけの人だと思われたら困るから」
隣を見れば浪崎がひきつった笑顔を浮かべていた。仕方ない、そう思いテーブルに持ってきた資料を広げた。
「では、仕事の話をしましょうか」
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