うさぎやと金平糖の話

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うさぎやと金平糖の話

 ここは産右神社のおひざ元。甘味喫茶店・うさぎや。  うさぎやのコーヒーを求め、今日も神様が店を訪れる。  なお、『お客様は神様だ』なんていう文言はこの店に限っては比喩表現ではない。  本当にうさぎやには神様が客としてやってくるのだ。  その昔慶一郎がコーヒーにほれ、半なかば押しかけ修行をした店の話だ。  そこでは卓上に小さな金平糖が置いてあった。 「それか?茶菓子じゃないぞ。砂糖代わりだ」  師匠である老年のマスターはそう教えてくれた。 「金平糖が砂糖代わりなんて珍しいですね」 「そうか?昔は結構あったんだが……」  慶一郎の言葉にマスターは少し昔を懐かしむように笑う。 「しかし、もう今では金平糖を砂糖代わりに使う喫茶店は少なくなっただろうな」 「最近はみませんね」  70代ほどのカウンターに座っていた客がそう言葉を挟む。 「あぁ、でもこんな店が一つくらいあってもいいだろう」  ふいに慶一郎に向けるマスターの顔が険しくなった。 「おい、バイト。俺はこの店に金平糖が必要だからおいているんだ。俺の店にあったからといって自分の店の砂糖に金平糖を置こうなんて考えるなよ」 「ダメなんですか?」     
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